桜のダンスをおまえは見たか？　〜サクラ日記前編〜

全く更新されないとクレームが来たので、昔書いて好評だった奴を、ちょこっといじって載っけときます。

【取るに足らぬ仕事さ
はした金欲しさに
月曜にはまた繰り出すんだ】

先日、バイトを一つ辞めました。
そこは時給も良かったし、時間も融通利くし、仕事自体はかなり楽だし、労働条件としてはかなり良かったのですが、そこを続けるには俺は、余りにもナイーブ過ぎました。
さて何のバイトを辞めたかと言いますと…

「出会い系サイトのサクラ」！！

ひでえ仕事でした…。
二ヶ月も続けた俺は大したもんだと思います。
まあ、それも一ヶ月で辞めると給料が出ないというやくざな取り決めがあったからなんですけどね。
そこは職場の後輩に紹介してもらったんですが、実際にやる前はそんなん余裕だと思ってました。
昔、友達に女のフリをして「メル友になりませんか？」というメールを送り、一ヶ月かけて仲良くなって、地元の花火大会に誘い出し、待ち合わせ場所で彼を、絶望のどん底に叩き込んだ実績を持つ俺からすれば、造作もない仕事だと思ってました。
しかしそれは大間違いでした。
俺にもまだ良心という物は残っていたようです。
そこはかなりの悪徳有料サイトで登録してある人の八割はサクラというサイトでした。
なんかポイントを買って、それを使ってメールを見たり、返事を出したりするシステムだったんですが、聞いたところによると一回メールを見てその返事を出すのに450円かかるようです！
一回のやり取りに450円ですぜ！！
そんないかれたサイト誰がすんねん？と思いましたが、案外そんな人は、いっぱいいました…。
俺がその仕事をして思ったのは、(この国には一億以上の人がいながら、どうしてみんなこんなに孤独なんだろう…？)という事でした。
初出勤の日、俺はその現実を真の当たりにしてどうしようもなく切なかった。
怪しい消費者金融などが入ってるビルの一室にその会社はあるんですが、五十台以上のパソコンが並べられた部屋で、今日もみんな一心不乱にたくさんの人にメールを送りつけているのです。
会社が作った何人もいるサクラキャラを使って、そのキャラになりきってメールくれた人に返事返したりする仕事なのですが、キャラ設定とか俺からすればこんな奴が出会い系するわけないじゃん！って奴ばかりでした。
多分ネットでどこかから拾ってきた画像なんでしょうが、女も男もみんなモデルみたいなルックスで、年収一千万以上とかばっか！
そんな人が四十過ぎの男女に「あなたと是非メールしたいんです！」とか言ってるんです。
何のリアリティもありません。
それでも、そいつ等は信じちゃうんだよなあ。
俺は、最初は女のキャラを使わされて男にメールを打ってたんですが、あまり向いていないと判断されたようで男のキャラに移らされました。
女のキャラで、コスプレ大好き萌え癒し系キャラ「チョリちゃん」ってのがいて、それ使ってメールさせられたんですが、もうやりきれない気持ちになりましたね。
言葉遣いとかも各キャラに設定されてて、誰がそのキャラを使ってもばれないように統一されてたんですが、チョリちゃんは「顔文字多用で語尾に必ず〜にゃんをつける事」って書いてて、俺は普段もネタ以外に全く顔文字とかメールで使わないのに「今日はバイトで疲れたにゃん(TДT)ご主人様はどうだったかにゃん？(≧∀≦) 」などと深夜二時に四十過ぎの男に送ってると、どうしようもなく泣けてきました。
そういえばそこではバイト同士の交流とか全くなくて(むしろ持ちたくなかった)、そこを紹介してくれた後輩以外とは全く喋らなかったのですが、二回目の出勤の時に隣の席に座ったドレッドヘアの男はＰＣの使い方が全く分かってなかったので色々教えてあげました。
彼は見た目こそドレッドヘアで顔中ピアスだらけでしたが「俺、普段全くメールしないんですよ」と言って笑う顔は純朴な青年その物だった。
そんな彼の最初の質問が、「カタカナでオナニーって打ちたいんですけど、変換するにはどれ押したらいいんですかね？」だったってのが、最高に泣ける。
おまけに「オナニーとオナニィではどっちがいいですか？」などと妙なこだわりまで見せる始末。
ああ、純朴なラスタマンの彼を誰がこんな風にしてしまったんだろう？
俺はこのサイトが心底憎い！
まあ、しっかり変換の仕方教えてあげて「普通にオナニーでいいんじゃないですか」とアドバイスしてあげましたけどね。
そんな感じで二回目の仕事を終えてどうしようもなく切ない気持ちを抱えて家に帰ってるとMP3プレイヤーからストーンローゼスの「憧れられたい」が流れました。

【魂を売る必要はないんだ
彼は既に僕の中にいるんだから
魂は売らなくたっていいんだ
彼はとっくに僕の中にいるから】

STONE ROSES／I WANNA BE ADOREDより

ごめん、イアン…。
俺、魂を売ってしまったよ(涙)。
月の綺麗な夜でした…。

それから二ヶ月間、心を殺して働きました。
職業に貴賎はないとよく言いますが、この仕事に関しては、全く当てはまらないなと思いました。
サイトの請求が月20万の主婦とか、いっぱいいましたもんね。
ほんでやっぱそういうサイトにはまる人達って、今の境遇にどこか問題を抱えてる人が多くて、そういう現実から逃げたくてやってる人が多いんです。
そういう人達の孤独につけ込んでお金を巻き上げるのに俺は嫌気がさしたのです。
友人達もその仕事内容を聞くにつけ、俺に「おまえ、終わってるな…」と吐き捨てていくのでした。
二ヶ月間たくさんの人と心を通わせる事なくメールしましたが、色んな人がいました。
印象に残った人達をいくつか挙げていくと

・弁護士で年収3000万の男キャラにメールしてきた四十代後半の女

そいつは自分の写真を送ってきていたので画像があったが、その写真ときたらチリチリパーマに「うちのおかんと大差ないやん！」というルックス。
で満面の笑顔、おまけに両手でダブルピース…。
そのおばはんが「来週息子が修学旅行なんだけど、そのお金全部パチンコですっちゃった。だから竜ちゃん(そのキャラの名前)おこずかいちょうだ〜い」などと送ってくるのだ。
俺が息子なら間違いなくグレてるね。

・自分を悲劇のヒロインにして酔ってる五十代の女

そのサイトは、携帯のメールアドレスとかで直接やり取りしようとしてアドレス送っても、金巻き上げる為に個人情報は全部文字化けして見えないって事になってるんです。
実際は見えてるんですけど、**になってて見えないって言い張るようにバイトに指導してるんですね。
だから都合悪くなったら、全部文字化けしてるで逃げる訳です。
それでそのおばはんは、今まで何回も実際に会おうと待ち合わせしてるんですが、そんな人存在してないから当然会えない訳です。
それでも懲りずにまた待ち合わせて、「私達、今日ほんとに会えるんだよね？これで会えたら私達サイトの呪いに打ち勝ったって事だよね？私達二人ならきっと勝てる！」とか一人で盛り上がってるんですよ。
当然勝てる訳もなく、そいつはその日も待ちぼうけを食わされ家に帰ったのです…。

・露出狂の変態おばさん

これはよく自分の裸を送ってくる四十代後半の子持ち主婦なんですけど一回こいつがメールセックス(やる意味が分からん)を二十代のイケメン男キャラとしてる時に担当させられて俺の十分前までそのキャラ使ってた奴とのやり取り履歴見たら最後のメールが「あぁん、コージ(そのキャラの名前)のペ○スが大き過ぎて久美子壊れちゃうよぉ」ですよ！！
ほんと勘弁してくれって思いました。
それに俺が何て返したって？それは俺の尊厳を守る為にも秘密にしときます。
俺は金で魂を売ったのです…。

他にも自分の事を「るりねぇー」などと下の名前で呼ぶ五十代とか、毎回毎回「私もう今から飛び降りて死ぬ」などと送ってくるが、絶対死なない女とか、そんな馬鹿ばっかでしたよ。
「おまえ等は、四十年以上も生きてきて一体何を学んできたんだ？」と激しく問い詰めたかった。
そんな仕事に俺が日増しに心を病んでいったのも分かってもらえると思います。
給料貰えるようになったら速攻辞める！それだけを心の支えにしていました。
やり甲斐を感じるかは別として、俺はその仕事に関してはそれなりに向いていたようです。
なんか目標として馴れたら一時間にメール50通以上送れって言われるんです。
そんなん絶対無理でしょ？
で、俺は30通がやっとだったんですが、メールの返信率は良かったみたいで、メールの内容もバイトリーダーみたいな奴に誉められましたよ。
まあ何の自慢にもならないですがね…。
そのまま続けてたら時給1500円位はすぐにいったんやろうけど、その仕事やり出してから、マジで夜中に悪夢見てうなされるようになりましたからね。
心が限界でした。
だから辞めた今は、開放感でいっぱいです。
あ、そうだ。
最後に忘れられないすげえ悲しいエピソードを一つ。

サイトの常連にＭっていう三十代前半の女がいるんですけど、そいつはかなり古くからそのサイトの利用者で、毎月サイトに五万も六万も無駄金遣ってる痛い女なんです。
そいつも顔写真送ってきてたから画像あったけど、いかにも幸薄そうな顔してました。
で、辞める二日前に獣医でイケメンの二十代後半の「チェーン」って男キャラを使って、そいつとメールしてたんですね。
Ｍの脳内ではそのチェーンと付き合ってる事になってるらしくて、恋人同士の仲のよいやり取りをしてた訳です。
そしたらＭが、このサイトでアドレス交換する方法を思いついたと言うのです。
今から私が携帯のアドレスを本名の下の名前＋チェーンの誕生日(各キャラには誕生日まで設定されてる)にするから、そこにメールしてみてと言う訳です。
こういうのは今まで他にも試みた女がいるんですが、いつも文字化けでメールに何が書いてるか全く見えないとか言って逃げるんです。
でも俺は、このバイトを辞める前に計画していた事があったので、そのまま話を続けました。
とりあえず俺は、「ちょっと今、犬の診察入ったからそれ終わったらメールしてみるね」と送って、後はＭを放置しました。
さて俺の計画とは、サイトでは相手にアドレスとか個人情報は、文字化けして見えないと言ってますが、ほんとは見えてる訳で何人かのアドレスは分かっているのです。
だから辞める前に、そいつ等にＰＣのフリーメールからメールを送ってこのサイトの実態を教えてやり、悪徳サイトから救ってやろうと思ったのです。
それがせめてもの罪ほろぼしだと。
俺はＭとのメールが終わった後も、他の客にたくさんの嘘をつき、魂を売って、はした金を稼いで家に帰りました。
そして家に帰ると早速、家のＰＣでフリーメールのアドレスを取得しました。
そのIDもまたsakuradasakura77というとんちの利いた物にして、そこからこんなメールをＭに送りました。

「あんなサイト全部サクラだ。寂しいからってあんなとこに逃げてんじゃねーよ。現実で生きろ」

うん、俺ほんまええ事言うた！そんな満足感でその日は、悪夢も見ず、うなされずに眠れました。
そして翌日もサクラバイト出勤日だったので、席に着くや否や、チェーンのページを開き、Ｍとのその後のやり取りを見ると、そこには衝撃の内容が待っていたのです！！

あ、長くなり過ぎたから続きは後編に書きます。