阪急デブとイノセンスについての回想

mixi時代に書いた日記をちょこっといじって載せときます。
俺が再び酒に手を出した結婚式に阪急デブも呼ばれてて、久々に会ったのですが、どうも阪急デブ自身も八月位に結婚するそうで、その式にも呼ばれてるのです。
今度は飲まんと務めを果たすぞ!
阪急デブおめでとうの記念に約9年前に書かれた日記を再びアップ☆
この頃はまだ面白い文が書けてたと思う…。
ログ残しといて良かった。




あれは三、四年前の事だろうか…。
俺は毎度おなじみの友人Oと共に友達がやってるバンドのライブを観に十三に来ていた。
関西在住の方は分かると思うが十三はじゅうそうと読む。
そして立派な風俗街だ。
俺はそういうとこを通る度によっぽど飢えてそうに見えるのか、かなりしつこい勧誘を受ける。
今回も十三ファンダンゴというライブハウスに辿り着くまでに何人ものキャッチの兄ちゃん、姉ちゃんの誘いを振り切る羽目になりすっかり疲れ果ててしまった。
でもライブは良かった。
十三ファンダンゴはやっぱいいハコだなと思った。
そしてライブを観終わってそろそろ帰るかと来た時と同じくまたキャッチを何人もやり過ごしてようやく駅の改札に着いた。

本題はここから始まる。

駅の改札はこれから出勤と思われる派手な姉ちゃん達で埋まっていた。
皆、同じような毛先をクルクル巻いた髪型をして、同じような露出度の高い服を着て、同じようなパンツが見えそうな短いスカートを穿き、同じようなブランド物のバッグをぶら下げてた。
なかなかその光景は圧巻でした。
俺はきつい香水の匂いにくらくらしながら(これからこの娘達は愛想笑いでお酒をついだり、汚いおっさんのち○こ咥えたりしに行くんだなあ)などと感慨に浸っておりました。
その一群が全員改札をくぐり終えるまで俺達は切符も買わずに待っていたのですが向かいからやってくる女の一人に俺は目を奪われた。

Iさん!?

間違いありません。
小、中と同じ学校だったIさんです。
俺は人の顔を覚えるのはかなり得意なのです。
同じく同級生だったOはIさんにまるで気付いてないようです。
Iさんも俺達の事にまるで気付かない様子で一人夜の歓楽街へ消えていきました。
俺は変わり果てたIさんの姿に少なからずショックを受けてました。
これがクラスに一人はいるヤンキーのヤリマン女なら俺も(ああ、やっぱりあいつも落ち着く所に落ち着いたな)と特に何のショックも受けずに済んだのですが、Iさんはそういう女達とは正反対の娘で俺達の間では正にイノセンスの象徴だったのです。
Iさんはそんなに美人ではないものの気立てのいい優しい女の子でした。
そしてそれを象徴する忘れられないエピソードがあって、それが日記のタイトルにもなってる「阪急デブ事件」なのです…。

さてその「阪急デブ事件」とは

俺とOにはMという小学校の頃から知ってる共通のデブの友人がいて、そいつはデブの宿命とも言える典型的ないじられキャラでした。
しかもデブの上に調子乗りだったのでそりゃあもういじられキャラとしての将来は約束されたような物でした。
でも俺はMとは小学校では同じクラスになった事はないので「阪急デブ事件」を実際目にした訳じゃないんですよね。
だからここからはあくまで後でOに聞いた話です。
ある日、教室にMが真新しい色鉛筆のセットを持って来たんですよね。
それも24色とかそんなしょぼいのじゃなくて色の種類も凄く多いやつ。
小学生ってそんな物でも凄い騒ぎ立てるじゃないですか。
であっという間にMはクラスの数人に囲まれ口々に「すげー!」とか「これどこで買ったの?」とか聞かれてた訳です。
で生まれついての調子乗りのMは鼻高々ですよ。
M「実はさあ。親父がイギリスに出張行っててそのお土産に買って来てもらったんだ」
観衆「おお、すげえ!イギリスかよ!」
そんな中、その輪の中にいたOがある物を発見してしまったんですね。
Oは昔からそういうとこには目ざとい男で、人が一番気付かれたくない物を一番嫌なタイミングで見つけてしまう恐ろしい男なのです。
何をOが発見したかと言いますと、イギリスで買ったはずの色鉛筆に貼られていた…

「Hankyu」と書かれた俺達におなじみの阪急百貨店のシール!!
[

その情報は瞬く間にMの席の周りにいた者達に知らされさっきまで得意の絶頂だったデブは今やうなだれるのみになった。
そしてそれを最初に発見したのがOというのがまたまずかった。
Oは当時、I男とJという二人と仲が良くその三人はクラスで「極悪系」と呼ばれ、触れる者みな傷つけずにはいられない男達として恐れられていた。
早速、その三人が集まってMを集中攻撃し始めた。
O「おい、豚野郎!どこで買ったって?ふーんイギリスねえ…」
I男「くだらねえ見栄張りやがって!こいつの事これから阪急デブって呼ぼうぜ」
J「おお!いいね!」
そこで始まる悪魔達の阪急デブコール。
Mにとっては地獄のような時間だっただろう。
しかしそこに救世主が現れた。
それがIさんだった。
I「あんた等、やめーや!」
その後Iさんが言った一言は今でも伝説だ。

I「イギリスの阪急かもしれへんやろ!!」

何のフォローにもなってないよIさん…。
もちろん極悪系の三人がそんな言葉にひるむ訳もなく、むしろ火に油を注ぐ結果となった。
O、I男、J「イギリスに阪急あるかボケ!」
そしてそれからMは中学を卒業するまで俺達に「阪急デブ」と呼ばれ続けた…。
以上が有名な阪急デブ事件だ。
これを読んでもらえばいかにIさんがいい娘だったか分かってもらえるだろう。
この一件以来ネタとしてMの初恋の相手はIさんという事になり、俺達の間でIさんは、イノセンスの象徴となった。
そんなIさんが今や十三のキャバクラ、もしくは特殊浴場などで働いてると思うと俺は流れる歳月の残酷さを恨まずにはいられなかった。
俺は改札をくぐり、電車に乗り込んでもOにさっき見た物をなかなか言い出せずにいた。
しかし現実というのはいつだって残酷な物だし、俺達ももういい年だからそれを受け止めねばならない。
意を決してOにさっき改札で見た物を教えた。
Oは呆然とした顔で「Iさんがそんなとこで働く訳ないやんけ!俺をちょっと…からかってみただけだよな?」と言った。
それを否定して間違いなくあれはIさんだったと教えるとOはそれから俺が何を言っても当時公開していた押井守監督の映画「イノセンス」のキャッチコピーのパクりを口にするのみになった。

イノセンス それは、Iさん」

彼は壊れてしまった。
俺は当時から人の美しい思い出をぶっ壊すのが大好きだったのでついでにここ何年も連絡を取ってなかったMにもさっき見た物をメールで報告してみた。
しかし彼から返ってきたメールは予想とは違っていた。
細かい内容は覚えてないがたしかこんな事が書いてあったと思う。

「あの時Iさんの一言がなければ俺の心はO達によって壊されてしまっていただろう。キャバクラ?ヘルス?大いに結構じゃないか。キャバクラで働いてるなら彼女は愛を知らない若者に愛の素晴らしさを教え、ヘルスで働いてるなら妻に先立たれた老人達とかの寂しさをその体で埋めてやっているだろう。彼女は今も誰かを救い続けている…」

俺は(前向きなデブほど腹立たしいもんはないぜ!)とそれを読んだ当時は「ちっ!」と舌打ちしたもんですが、今なら彼の言っていた事も分かるような気がするんです。
やっぱり必要とされてるからこそ、その職業がある訳だからどんな所で働いててもIさんはIさんなんだと。
そしてかの有名な哲学者マルクスの言葉を借りるならば肉体労働者こそがこの世で最も美しいのです(こんなん書いたら頭良さそうに見えるかなと思って書いてみたけど、もちろんマルクスの本なんか一行たりとも読んだ事はありません)。
Iさんが変わってしまったのか変わってないのかは分からないけどこの日記で結局のところ言いたかったのは

「変われるってドキドキするね!」

って事ですね。
ブラボー!ハラショー!ムイビエン!Iさん!
彼女が今も幸せに暮らしていればいいなと願いつつ、日産カローラのCMの曲が流れて【完】https://www.youtube.com/watch?v=Q3Dfl3ed1bA